大人の発達障害に関する調査診断結果
1. 全体の8.8%に、その傾向がみられる
成人してから、自らが生きづらさを感じ(もしくは周囲が違和感を感じ)、発達障害傾向があることを認識する、いわゆる「大人の発達障害」が増えているといいいます。そこで、成人した大人の発達障害に関して現状を調査しました。
2011年2月に実施した成人1148名のアンケート結果です。調査の際に利用いたしました尺度は、臨床・学術面で発達障害傾向を見るうえで用いられている千葉大学 若林明雄 教授作成「自閉症スペクトラム指数 (AQ) 日本語版」です(著作者の許諾を得た上で利用)。
自閉症スペクトラム指数(以下、AQと呼称)では、調査結果の集計の際、ある一定の得点をカットオフポイント(健常者と、その傾向がある人の境目)として設定しております。このポイント以上の得点となった人の割合をみたところ全体の8.8%となりました。
本指標の開発者でもある専門家(千葉大学教授 若林氏)の意見を伺ってみますと「割合自体はネットリサーチという性格上、実際よりもかなり多めに現れているとも思えるが、軽度の自閉症スペクトラムを含めた場合には,実際これに近い出現率があるという専門家もいる」、また(以下で紹介する)「事務系と技術系の差,また大学生での出現率などの比率に関しては,調査結果自体は妥当であると考えられる」とのことでした。
2. 職業別にみると技術系の会社員で割合が高く、事務系の会社員で低い
主な職業別に、上記の境目となるポイント以上の得点となった人の割合をみたところ、以下のようになりました。
会社員を事務系と技術系に分けると技術系は学生とほぼ同じ水準約9%であり、事務系ではその約半分程度の割合となっています。
技術系では、学生と同じ割合で存在するということは、その傾向があった場合でも得意な技術分野等で力を発揮できる場があることを示していると考えられます。
一方で、事務系では、営業や企画等、社内外コミュニケーション力も必要とされるであろうことから、採用段階である程度絞られていると推察されます。
また、その他・無職の層では全体平均の2倍近い割合が該当しており、無職・フリーター等の背景要因の一つとして発達障害及び、そのような人たちに対する社会全体における理解の乏しさがあるのではないかと推察されます。
3. 高いストレスを感じている人の割合が多い
AQでカットオフポイントを超える得点となった群(発達障害傾向あり)と、それ以下の得点であった標準群に分けて、現在感じているストレス感について分析しました。ストレス反応指標において、反応度がある一定以上の高い人の割合の違いをみたのが以下の図表です。
発達障害傾向のある層は、標準的な層に比べて、高いストレス反応を示す人の割合が2倍近く高いことがわかります。コミュニケーションがうまくいかない等により、普段から強いストレスを感じていることが推察されます。
4. 職場で評価されていないと感じている人が多い
同様に二つの群で、職場での評価(Q現在の職場でのあなたの業績・勤務評価は同期や同僚の中で下位(した)20%に該当する)を問う質問との関係をみました。
発達障害傾向のある層は、標準的な層に比べて、業績・勤務評価が低いと認識している人の割合が1.8倍近く高いことがわかります。
5. 会社員の事務系と技術系に分けてみると、事務系の方が苦労している
上記の業績・勤務評価との関係を、さらに会社員の事務系と技術系に分けて見たのが下の図表です。標準的な人と発達障害傾向のある人で低評価と認識する人の割合の差異に着目すると、事務系の方が差異が大きいようです。
技術系では発達障害傾向の有無により評価認識に差異が少ないが、事務系では、発達障害傾向があることで、業務がうまくいかずに低評価に甘んじているというケースが多いのではないかと考えられます。同様の傾向はストレス反応でも見られました。
以上の結果より、発達障害傾向のある人でも、自分にあった職種を選択することで、自分の力をより発揮でき(かつ周囲からも評価され)、ストレスを抱えることも少ないということが言えると思われます。
自分のことをよく知り、自分の特性にあった仕事を選ぶ、もしくは会社側も個人の特性を知り、特性にあった配属・配置を行うことにより、従業員のストレスを減らし、評価を高める(より成果をあげる)ことができるということを示唆していると考えます。
アンケート調査の概要
対象:日本在住 20歳以上の社会人、学生
有効回答数:1148人
実施時期:2011年2月
実施方法:インターネットアンケートより無作為抽出